【ショートストーリー】恋してみたら? 第22話 「モテキ <遙香 ②>」

好きでない人のことはどうしてよく分かるんだろう?

写真は好評だった。
「この笑顔ですよ!これなら申し込みバンバン来ますって」
カウンセラーの谷口梓が、張り切って言うので、遙香は仕方なく頷く。
確かに写真の遙香は、見た事がないような無邪気な表情で笑っていた。
だがそれを見ると、胸がざわめく。
レンズの向こうでみつめていた彼を思い出すから。
「朝森写真スタジオ」カメラマン朝森良太
38才。フリーカメラマンを経て独立。スタジオは去年の冬に始めたばかり。

 郵送すると言われた写真をわざわざ取りに行った時、
「お見合いに失敗したらまた撮りに来ちゃうかも」
ふざけたふりで言ったのに、
「成功を祈ってます。この写真ならいけますよ」
真面目に励まされてしまった。かと思うと、
「でも恋人取られるみたいで辛いな」、などという。そして   
「恋人ごっこもう1回だめですか?レンズなしで」
思いつきのようにお茶に誘われた。
心を見透かされたみたいで恥ずかしかった。・・・

 「あの・・・あんまり笑わないんですね」
ぽつりと言われてハッとする。
一ヶ月後。お見合い相手、池内さんとのデート2回目の事だ。
 写真を替えたら、面白いようにお見合い申し込みが増えた。
谷口が張り切って、遙香のタイプに合う池内さんを選び、あっという間にお見合いの段取りが整えられる。
高身長。旅行会社勤務。爽やかな雰囲気に年齢も36才とまだ若い。
今一つ乗り気でない遙香を、谷口は信じられないという顔で説き伏せた。
「チャンスなんですよ。モテキなんですから。この波を逃したらまた・・・」
誰からも申し込んで貰えなくなっちゃいますよ、と言いたいのだろう。

 会ってみたら、池内さんは想像以上に素敵な人だった。
しかも何故か遙香を気に入ってくれ、お見合いの帰りには、
「もう一度会ってくださいね。1回でNGにしないで下さい、頼みます」
なんて言ってもくれた。
その粘りに負けて、今日2回目のデートをしているわけだが、申し訳ないと思うほど、池内さんは遙香を思ってくれている。ひしひしと感じるのだ。

 好きでない人の事は、どうしてこんなによく分かるんだろう。・・・
良太とはあれから1度だけ会った。
池内さんとお見合いしたすぐ後に、向こうからメールが来て映画に誘われた。
「お見合いどうだった?」、なんて聞きながら、
ふと、レンズ越しの時のように、「遙香」と呼び、
「こっちだよ」と当たり前のように手を繋いで歩いたりする。
どういうつもりなの?何を考えてるの? 聞きたいけれど、聞けなかった。
じゃあね、と尻切れトンボに別れたきり。
「お見合いの人にもう一度会うことにしました」
というメールに返信すらない。

 「あの・・・あんまり笑わないんですね。僕、写真見て三上さんはいつも笑ってるみたいな人かなって思ってたから」
池内さんに言われ、ゴメンナサイ・・・、思わず謝っていた。
 次のデートはお断りしよう、そう決心しながら帰路に着いた。
池内さんは、自分が楽しませないから悪いんだとフォローしてくれたが、やさしくされればされるほど、後ろめたい気持ちになる。
彼に会う前なら、きっと好きになれた人なのに。

――気がつくと、写真スタジオへの道を歩いていた。

                                        つづく