【ショートストーリー】恋してみたら? 第31話 「三姉妹 ④最終回」

「いい人だからって好きになるとは限らないでしょ」
「好きじゃないの?」
「だからね、好きだけど、」
好き だけど・・・
20140702

 恭子が、文子のマンションを訪れたのは、お見合いから三ヶ月後の週末だった。
「ようこそ、いらっしゃい」、よそゆきの声でドアが開く。
「遅かったじゃない」、もう一人が興味津々の顔を覗かせる。
恭子はおどけた調子で、
「連れてきましたぁ!」と宣言すると、傍らの芳男を姉たちの前へ押し出した。

 あの日、見合いを終えた恭子は、すぐに川原に電話を掛けた。
「土日はメールにしてくれって言っただろ」
不機嫌な声。後ろからテレビの音が、微かに女性の笑い声も聞こえた。
奥さん?それとも娘さん、かな・・・。
「あの・・・大丈夫?」
振り返ると、見合い相手の三浦芳男が立っていた。
「もしかして彼氏?」
芳男の声には、非難も、皮肉もなかった。友達を案じるような調子でハンカチを差し出されてはじめて、恭子は自分が泣いているのに気づいた。
 あれから・・・二人でお酒を飲みに行った。
自分でよければ話を聞くという芳男に、恭子は川原の事を全て打ち明けてしまった。姉たちが聞いたら何と言うだろう。
芳男は批判せず、意見もせず、ただ興味深げに耳を傾けてくれた。
「それはきついねえ」とか、「なるほど、男は勝手なもんだよなあ」、
なんて相づちを打ってくれるだけで、
姉たちに相談するより余程心が楽になるから不思議だった。
見合いの場より芳男は大人びて見え、田舎の兄貴みたいで居心地が良かった。
「だからさ、俺、いい人で終わっちゃうんだよね」
笑った目尻に皺が寄るのも、見ようによってはキュートだ。
 といって、うまい具合に芳男に恋をするとはいかない。
ただこの日以降、気が合う男友達として、川原に会えない週末に飲みに行ったり、電話で話したりするようになった。・・・

 「恋人ってわけじゃないのよ」
何度も釘を刺したのに、文子も、真理子も、すっかり妹の彼を品評する目だ。
「ご兄弟は何人?」
「今度は主人のいる時にいらしてね」
「じゃウチのも呼んで六人でBBQでもする?」
やんなっちゃう。ま、こうなる事はわかってたけど。
ドギマギし続ける芳男を見ながら、恭子は不思議な気分になる。
思えば、姉たちに紹介しようなんて思った男性は初めてだった。
川原の前にだって恋人はいたけど、家族に会わせられるタイプじゃなかった。
その点、芳男は安心だ。
上手に答えられなくても誠実だし、気取らないし、人の話をきちんと聞くし・・・

 「いい人じゃない。どうして彼と付き合わないの?」
案の定、芳男が手洗いに立つと、文子に真っ先に聞かれた。
「いい人だからって好きになるとは限らないでしょ」
「 “それとこれとは違う問題”なのね」
「そう!それよそれ」
「好きじゃないの?」と、真理子。
「だからね、好きだけど、」
「はいはい、“それとは違う問題”なのね」
少女時代、三人の間で流行ったフレーズが飛び出して姉妹はひとしきり笑った 帰り道、

「本当に美人姉妹なんだねえ、驚いたなあ」
芳男は繰り返した。まんざらお世辞じゃないのが彼らしい。
あ、そういえば、と彼は思い出したように続けた。 「来週、お見合いすることになったんだ。今度はさ、いい人で終わらないように頑張るから、恭子ちゃん指導してよ」
笑った目尻にキュートな皺が出来て、恭子の胸は思いがけずざわめいた。
ふと、来た道を戻って姉たちに問いかけたくなった。
“それとこれは違う問題”・・・・?
お姉ちゃん、私、ほんとにそれでいいのかな?
                               (「三姉妹」おわり)