【読みきりショートストーリー】恋愛カウンセラー日記「スリッパ」

「彼の為」にしてあげることいっぱい。
「彼が望むこと」は全部してあげる。
でもそれ、ホントに彼の為?
ホントに彼が望むこと?

彼の為が「自分の為」だったり、
望むことが「望んで欲しいこと」だったりしない?

OLのミオさんは、尽くすタイプの女性です。
お見合いで出会った彼は、都心のマンションに一人暮らし。
商社にお勤めで年収も高く、スラリと長身で彼女のご希望通り。
ただ一つ難点といえば、バツイチという点だったけれど、子供もおらず、
二人には何の障害もないように見えました。

尽くし型のミオさんは、一月足らずで彼の部屋の合い鍵をゲットし、
掃除に洗濯、週末には手料理と張り切りました。
早すぎるのでは?と心配しましたが、
平日は泊まらないし、彼の予定があれば週末も会わない。
束縛していないから大丈夫、と笑顔でした。
部屋に時々行ければ、それだけで安心だから、と。

「いつも部屋が綺麗で嬉しいって言ってくれました」
「外で食べるより私の料理が好きだって」
クッションカバーを手作りで統一したとか、
散らばっていたCDをケースを買って整理した、とか
ミオさんは自慢気に報告してくれました。
でも、何だか気になっていたのです。彼女が笑いながら最後に言った言葉が。
「彼、何だか人のウチみたいだな、なんて言うんですよ」

別れは突然やってきました。
理由は、スリッパです。
別れた奥さんが履いていたスリッパを、ミオさん勝手に捨てちゃいました。
夫婦お揃いのスリッパは、亡くなった恩師からのプレゼントだったとか。

「そりゃ恩師の方には悪かったけど・・・でも奥さんが履いてたのが家にあるの嫌だったから。新しいのも買っておいたし、なんでそんなことで・・・わかんない」
ミオさんは訴えます。
「だって古びた、ただのスリッパなんですよ。どんなに綺麗に掃除してもあれがあるだけで、私たちの部屋じゃないみたいで」

彼女はまだ気づいていませんでした。
その部屋が“私たちの部屋”じゃなく、“彼の部屋”だったということに。
                                   (おわり)