【恋愛小説】私のカレイドスコープ ~妄想社内恋愛のススメ?~ 第6話「オレンジの出会い」

~あらすじ~

セリカは、大手家具メーカーに勤める27歳OL。2年前、元カレに浮気されてフラれた過去をひきずりつつ、ときめきを求め、好みの男を見つけてはある妄想をしてしまう癖が。

営業部のプレイボーイ、企画部のイケメン上司、総務部の年下男子……と、妄想を駆り立てる相手には事欠かない。

めくるめく万華鏡(=カレイドスコープ)のように変わるセリカの脳内ワールド。それは、彼女の現実に恋人を引き寄せるスパイスになるのか?

第6話「オレンジの出会い」

廊下

会議室に向かって歩いていると、紙袋をぶら下げた一人の男性社員が正面からやってきた。

いつもなら、その人がどんな感じかチェックして、すぐに妄想スイッチを探す私なのに、その時はまったく目に入っていなくて、ぼんやりしたまますれ違った。

 

けれども、すぐに背後から声がした。

「すみません」

「はい?」と振り返ると、今すれ違った社員が尋ねた。

「総務部ってどこですか?」

「ああ……すぐ上の階ですよ」

「そうですか。この階かもって勘違いしてました。ありがとうございます!」

「私も総務部ですが……何かお届けするなら、預かりましょうか?」

「いえ……」

 

男はネクタイをきゅっと結びなおして、背筋を伸ばし、言った。

 

「来週から総務部に配属されることになった、天野トシキと申します。よろしくお願いします!」

「あ、そうなんですね。三上セリカと申します」

私も軽く頭を下げると、彼はにっこり笑い、

「セリカ先輩ですね! インプットしました」

と言い、去っていった。

 

後でわかったことだか、トシキ君は、総務部に欠員が出ることから、隣県の支社から急遽転勤でやってくることになった。

若いけれどなかなか仕事のさばける子なので、彼が選ばれたという。

 

その日、彼は総務部に挨拶に訪れ、お土産代わりにわざわざ取り寄せたという高級オレンジを置いて帰った。

 

しかし、ここで重要なのは、「支社から若い男性社員が来る」というニュースより、「総務部に欠員が出る」って部分だった。

 

オレンジの香りが、ちょっとした衝撃を運んで来るのだった。

【恋愛小説】私のカレイドスコープ ~妄想社内恋愛のススメ?~ 第6話「オレンジの出会い」

会議室(臨時医務室)

ドアの前に立ち、思い切ってノックすると、「はい」と桐生先生の声がした。

扉を開いた瞬間、何かがすごい勢いでドーンとぶつかってきて、私は、

「きゃあ!」

と声を上げ、尻もちをついてしまった。

 

目の前に、小さな男の子が立っていた。

前に、エレベーターで一緒になった子だった。

 

桐生先生が「すみません!」と慌てて駆け寄り、私の手を握り、そっと体を起こしてくれた。

 

胸が、キュンとした。

 

「大丈夫ですか?」

「は、はい」

私が赤い顔で言うと、先生は男の子を見て、

「ちゃんと謝りなさい」

と、厳しい目つきで男の子を叱った。

 

「ごめんなさい」

と可愛らしい声で言って、「パパ、これでいい?」と先生を見上げた。

先生は少し微笑んで、こくんと頷いた。

 

優しい瞳だ。

さすが、パパ。

 

パパ?

 

……

 

パパああああああああああああああ!?

【恋愛小説】私のカレイドスコープ ~妄想社内恋愛のススメ?~ 第6話「オレンジの出会い」

診察デスク

桐生先生は、言い訳するような慌てた感じはなく、それでいて、身の上話をするような重い感じでもなく、サラッと言った。

「息子の翼です。5歳になります。家内がこの子を産んですぐに他界したから、今は僕がシングルファザーってところです。いつもは幼稚園から帰ったら母が見てくれるんですけど、ここ数日は母がどうしても来られなくて、かと言って、人見知りで他の人に預けることもできず……それで、この3日間は病院ではなくこちらを担当させてもらい、許可をいただいて、夕方だけここに置いているんです」

「そうだったんですか」

私は、間の抜けた声で相槌を打った。

 

桐生先生、パパだったのかあ。

亡くなった奥さんって、どんな人だったのかなあ。

 

そんなことをぼんやり考えていた。

 

「まあ、僕のこんな話を聞かされたところで、あなたは困ってしまいますよね。」

桐生先生はそう言って、

「それで、今日はどうしました?」

私も、ハッと我に返った。

 

言葉に詰まる。

何を話せばいいんだろう?

 

先生にだけ妄想癖が出ないのはなぜでしょう?

……そんなこと言ったら、頭がおかしい子と思われる。

 

理沙とはどういう関係ですか?

……まさか、そんなこと聞けない。

 

その瞬間、先生が綺麗な髪の長い女の人と抱き合い、濃厚なキスをしている場面が浮かんだ。

女の顔は理沙だったり、全く知らない美人だったり、くるくると移り変わって、白い指で先生の体をなまめかしく這った。

 

なんていう妄想。

相手は、私じゃないなんて。

 

そうして気づいた。

私は、何かを突き止めるためにここに来たんじゃない。

 

ただただ……

 

桐生先生に会いたかったのだと。

【恋愛小説】私のカレイドスコープ ~妄想社内恋愛のススメ?~ 第6話「オレンジの出会い」

 

第1話から読みたい人は……
私のカレイドスコープ ~妄想社内恋愛のススメ?~
次回をお楽しみに!!

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