【恋愛小説】私のカレイドスコープ ~妄想社内恋愛のススメ?~ 最終話 「金色のひとめぼれ」

~あらすじ~

セリカは、大手家具メーカーに勤める27歳OL。2年前、元カレに浮気されてフラれた過去をひきずりつつ、ときめきを求め、好みの男を見つけてはある妄想をしてしまう癖が。

営業部のプレイボーイ、企画部のイケメン上司、人事部の年下男子……と、妄想を駆り立てる相手には事欠かない。

めくるめく万華鏡(=カレイドスコープ)のように変わるセリカの脳内ワールド。それは、彼女の現実に恋人を引き寄せるスパイスになるのか?

最終話 「金色のひとめぼれ」

会議室(臨時医務室)

臨時医務室には、人影はなかった。

少し、待つことにした。先月と同じように、臨時医務室には先生の診察デスクと、医療機器と、カーテンで仕切られたベッドが三台あった。

 

桐生先生に会ったからと言って、何を話したらいいかわからないけれど、少しでも同じ時間を共有できたら……

 

そんなことを考えていたら、突然、背後でカーテンが開く音がした。

「え?」

振り返ると、そこに、天野君が立っていた。

すごい形相で近づいてきて、突然私の手を引っ張ると、いきなりベッドに押し倒した。

「な、なにやってるの?!」

「好きなんだよ! なんでわかってくれないの!」

天野君は抵抗できないように私の両手を押さえつけると、いきなり激しくキスをした。

「……ぐっ」

 

強引に押し倒されて、唇を奪われる……

妄想では何度も何度も出てきたシーンだ。

だけど、現実は全然違う。嫌だ。絶対に嫌。

 

「助けて!」

「誰も来ないよ。あの医者が好きなんだろ? でも、今は外に出てる」

天野君は、私のブラウスの前を引き裂くように開いて、そこに顔をうずめた。

 

「い、嫌……き……桐生先生!」

 

次の瞬間、ドアが開く音がして、コツコツと激しい靴音が近づいてきた。

 

桐生先生だった。

 

今まで見たことのないような怖い顔をして、天野君を私から引き剥がし、その頬を殴りつけた。

 

「出ていきなさい。見なかったことにしてやる。だが、今度彼女に近づいたら、今日のことを君の上司に報告する」

桐生先生は、厳しい口調でそう言い放った。

 

天野君は「くそっ」とつぶやき、医務室から走り出ていった。

【恋愛小説】私のカレイドスコープ ~妄想社内恋愛のススメ?~ 最終話 「金色のひとめぼれ」

医務室ベッド

「落ち着いた?」

そう言いながら、桐生先生は横たわる私に温かいコーヒーを差し出した。

「はい。本当にありがとうございました」

「いえ、僕がここに来てくださいと言ったから、わざわざ来てくれたんでしょう? そのせいで……」

「そんなことないです」

私は慌てて桐生先生を遮り、

「私が来たかったら、来たんです」

そんな言葉が口からこぼれた。

 

桐生先生は、「そうですか」と言って、ふぅっと息をついた。

 

「翼君は、今日は来ないんですか?」

「ええ。今月は母がいつものように見てくれてますから。でも、あの子、本当にあなたに会いたがっていました。だから」

「はい?」

「だから、今度は外で一緒にご飯でも……」

「はい、喜んで」

 

と、さらっと返事をしたものの……

【恋愛小説】私のカレイドスコープ ~妄想社内恋愛のススメ?~ 最終話 「金色のひとめぼれ」

内心、パニックだった。

今、私、食事に誘われた。桐生先生に!

マジかああああああ!

 

私の中には、さっき味わった嫌な気持ちは完全になくなってて、頭の中も胸の中もまるでお花畑のようだった。

 

すると先生は、

「翼は、母親を写真でしか知りません。でも、きっとなんとなく、わかったんでしょうね」

「何を……ですか?」

「あなたが、自分の母によく似ているということを」

「私が?!」

先生は、とても柔らかで、温かいまなざしを私に向け、

「顔が似ているわけではないんです。でも、雰囲気や、まとっている空気のようなものが、家内によく似ています」

私は真っ赤になり、絶句した。

「それから……あなたに会いたかったのは、翼だけじゃありません。僕もです。あなたにもう一度会いたかった」

 

血が逆流したようになり、喜びが全身を駆け巡った。

 

「もう一度会いたかった」

 

短い言葉なのに、これまで妄想で味わってきたどんな快楽より気持ちよく、私を高く高く天へと運んでくれる。

 

「私も……です」

 

桐生先生は微笑み、「よかった」とつぶやいた。

そして、

「ひとめぼれでしたよ」

 

ああ、もう死んでもいいです。

 

私は、もう二度と妄想することはないだろう。

万華鏡のように私の脳内をキラキラまわっていた妄想の数々は、砕け散り、その後にたった一つのピュアな「好き」が、金色の星みたいにキラキラ輝きながら転がっていた。

【恋愛小説】私のカレイドスコープ ~妄想社内恋愛のススメ?~ 最終話 「金色のひとめぼれ」

 

第1話から読みたい人は……
私のカレイドスコープ ~妄想社内恋愛のススメ?~

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