【恋愛小説】シークレット・レイン~禁断の社内恋愛~ 第5話

ついにキスをしてしまう聖良(せいら)と敦史(あつし)。敦史の胸には聖良への想いが募っていき、聖良もまた、夫のある身でありながら、敦史へと傾いていく心を止められなくなっていた。

第5話 嵐の予感(Atsushi-side)

成功の代償

第一営業部が大ピンチを乗り切った日の夜。

俺は、春奈とホテルにいた。

もぬけの殻になっていた下請け工場からの帰り道、俺は春奈の実家が部品工場を営んでいたことを思いだし、運転しながら彼女に電話した。

事情を知った彼女は、

『父に頼んでもいいけど、一つ条件がある』

『どんな?』

『もしうまく行ったら……私と結婚して』

『は? なにそれ』

イヤホンマイクから、春奈の低い声が響いた。

 

『それくらいしてくれてもいいんじゃない?』

 

俺はバックミラーで、後部座席に座っている青木部長を見た。

部長を助けたい、営業部を守りたい……その代償が「結婚」?

 

即答できずにいると、別人のような明るい声で春奈が言った。

「マジだと思ったの? うける(笑) 待ってて。今から実家に電話してみる」

 

その後は、すべてがうまく運んだ。

総務部に所属している春奈も営業部オフィスに来て、実家との交渉に力を貸してくれた。

 

青木営業部長も、

「ありがとう。本当によくやってくれましたね」

と、オフィスでは初めてと言っていいほど、柔らかで満ち足りた笑顔を浮かべ,

俺に握手を求めた。

春奈に対しても、

「あなたには感謝してもしきれないわ。本当にありがとう」

と言い、その肩を抱いた。

春奈は、アメリカ仕込みの青木部長のハグに戸惑いの表情を浮かべた。

 

すべてが落ち着き、春奈は、

「みなさん、お疲れさまでした。私、総務に戻りますね」

と挨拶をして、営業部を後にした。

 

そして、俺とすれ違う瞬間、

「LINEするからみといて」

耳元で囁いた。

やがて届いたメッセージには、

 

『今夜、つきあってね』

【恋愛小説】シークレット・レイン~禁断の社内恋愛~ 第5話

沈む恋慕

 

春奈はスヤスヤ寝息を立てていた。

彼女とは、体の相性は悪くなかった。

お互い恋人というには最初から不確かな関係だったが、彼女の少し小悪魔的な雰囲気に惹かれていたこともあった。何度も楽しい時間を過ごした。

 

でも、今は……

 

ラブホテルの部屋には窓がないけれど、外ではまだ昼間からの雨が降り続いているのがわかる。

昼間の、雨の中の出来事を思い出していた。

 

彼女を抱き寄せ、

「必ず、俺がなんとかします」

そう言って、重ねた唇。

「すみません。ずっと、好きでした」

あの言葉を、彼女はどう受け取ったのだろう。

抱きしめた時も、キスをした時も、彼女は抵抗しなかった。

 

あの時はただ、絶望的な想いに打ちひしがれて、抗う力がなかったから?

それとも、彼女も俺のことを悪くは思ってないから?

その瞬間、ベッド脇に置いていたスマホが光り、誰かからの着信を知らせた。

 

画面には、「青木聖良」の文字。

 

俺が手を伸ばした瞬間、いつのまにか目を覚ましていた春奈が、すかさずスマホをとった。

 

「おい、貸せよ」

俺がそう言うと、春奈は真顔で、

「だめ。今夜は私のためにここにいるんでしょ? スマホは触らないで」

「部長からだ。急な要件かもれないだろ?」

「こんな真夜中に? 仕事のわけないじゃん」

「いいから、貸せって!」

「いや!」

 

春奈はベッドから飛び降りた。彼女の手に握られたままのスマホはもう静かになっていた。

 

「敦史くん……青木部長のこと、好きなの?」

「は? なにそれ」

俺は内心ドキッとしたが、表面的にはポーカーフェイスで

「バカなこと言うなよ。それ、返して」

とつぶやいた。

 

「あの人、結婚してるのよ?」

「もちろん、知ってるよ、それくらい」

「私、この前、旦那さんと歩いてるとこ見たわ。スラっとして、知的で、オシャレで、すごくかっこいい人だったわよ」

「へえ」

「だから、好きになったって無駄よ。あきらめた方がいい」

「そういうんじゃないって、言ってるだろう」

俺は春奈の手からスマホを奪い返した。

 

彼女の夫……

 

その人について、真剣に考えたことなかった。あえて、考えないようにしていた。

あらためて、現実を突きつけられたような気がして、俺はその場に立ち尽くしていた。

【恋愛小説】シークレット・レイン~禁断の社内恋愛~ 第5話

第1話から読みたい人は……
シークレット・レイン~禁断の社内恋愛~
次回をお楽しみに!!

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