【恋愛小説】シークレット・レイン~禁断の社内恋愛~ 第9話

 

一夜を共にした敦史と聖良。しかし、社内では離れ離れになることが決定した。

社の上層部に対して「二人があやしい」と通告した者の存在が、その絆を揺さぶることになる。

第9話 欲望が招くもの(Atsushi-side)

止まらない疼き

翌週から、俺は以前のデスクに戻り、一営業マンとしての仕事を再開した。
聖良のもとには、秘書課から女性社員が転属してきて、俺がやっていた彼女のサポートを引き継いでいた。

俺たちは極力、直接接することのないように互いに意識し、それぞれが仕事に打ち込んだ。
いや、打ち込んでいるフリをした……と言う方が正しいかも。

頭も、胸も、目も、耳も、彼女の一挙一動に敏感に反応した。
彼女の声が遠くから響いてくると、思わず手が止まってしまう。
一瞬も目を離さずに見つめていたいのに、それができないモヤモヤした感情がデスクにいる間中、俺の中をかけめぐる。
彼女が、うっとりとした、それでいてどこが切ない表情で目を閉じ、俺を呼ぶ声。
甘い髪の香り。つややかな唇。細い首筋。白い乳房。俺を包み込む、あの感触。
すべてが蘇り、胸が熱くなり、彼女とつながった下半身が疼き続けるのだった。

そんなもどかしさをぶつけるように、俺たちは翌週も、あのホテルで会うことを約束した。
あの満月の出来事が、一夜限りの夢で終わらなかったことに、俺はホッとした。

会社では一切、プライベートな会話は交わさず、確認だけのLINEを数回交わし、読むとその都度、履歴を消すことにした。

彼女の夫はもちろん、俺たちのことを「あやしい」と上に密告した誰かに対しても、決して悟られないよう慎重に振舞わなくては。

【恋愛小説】シークレット・レイン~禁断の社内恋愛~ 第9話

冷たい決別

その日は、聖良と例の隠れ家で食事をし、夜を一緒に過ごす予定になっていた。

「主人が泊りの出張だから、今日は朝まで大丈夫になったわ」

彼女からのLINEに心躍った。

 

続けて、着信音がしたのでスマホを見ると……

 

春奈だった。

 

俺は、次に春奈と連絡を取る時は、はっきり決別の意思表示をしなくてはと考えていた。

できればこのまま、フェードアウトしてほしい……卑怯かもしれないが、そんな気持ちもあった。

なぜなら、俺と聖良のことを密告したのは、春奈ではないかという想いがあったからだ。

 

俺は彼女と顔を合わせたくなかったから、あえて、総務部のフロアには足を運ばなかった。最後に会ってから10日ほどが過ぎていた。

 

LINEは、

「会社ではなかなか会えないね。もしかして、避けられてる?笑」

「忙しい? 今日ご飯でも行かない?」

とあった。

 

俺は、

「ごめん。忙しいし、いろいろあって、もう二人で会うのはやめたい」

と返した。すると、

「好きな人ができたのね。わかるわよ」

「ひどいわね」

「このまま、LINEで終わらせようなんて、マジありえない」

と、立て続けに入った。

「待って。俺たちってつきあってたの? 違うよね? 春奈も“しばられるのは嫌だから彼女にはならない”って、言ってたよね?」

すぐに既読はついたものの、それからしばらく、彼女は沈黙した。

一時間ほど過ぎた時、

「やっぱりだめだ。離れたくない」

と言ってきた。

「私は敦史のこと好きよ。これからはちゃんと向き合いたい」

「ごめん。俺もう、今まで通り会ったりできないよ」

「もう一度だけでいいから、会ってほしい。今日、いつものカフェで待ってる」

「無理だよ。ごめん」

それを最後に、春奈からの返信は途絶えた。

 

「好き」という彼女の言葉に、心が痛まなかったわけではない。

もっと、誠実に話をしてあげればよかったかもしれない。

 

だが……今夜は聖良と会う。

俺はそのことで頭がいっぱいで、とても春奈を気遣う余裕などなかった。

まして、聖良との約束を破棄して、春奈と会う気なんてさらさらなかった。

 

これでよかったんだ……と、俺は自分に言い聞かせた。

 

後に、この時の冷たい態度を、俺は激しく後悔することになるのだった。

【恋愛小説】シークレット・レイン~禁断の社内恋愛~ 第9話

第1話から読みたい人は……
シークレット・レイン~禁断の社内恋愛~
次回をお楽しみに!!

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