新たな出会い【あの頃のプライド/第1章 桜の季節/第1話】

バスを降りて若干傾斜のある坂道をのぼっていくと、大学の正門が見えてくる。心地良い春風が首をかすめ、目の前の桜の花びらをヒラヒラと揺らす。

新たな出会い【あの頃のプライド/第1章 桜の季節/第1話】

甘い香りが鼻に漂ってくると、なんだか胸が高鳴り始め、まだ緊張している自分に気付く。やがてこの緊張も薄れ、毎日が何気なく過ぎていくようになり、いずれは胸を焦がすような思い出に変わっていくのかもしれない。

悠子はあえて地元から離れた大学を選んで進学した。自分のことを誰も知らない街で、新たな生活を始めたかったからだ。容姿も良くなければ、性格も暗い。コンプレックスも強く、自己嫌悪の塊のような自分と決別したかった。

「悠子! おっはよ~!」声をかけてきたのは、同じ学部の結衣だった。結衣は見た目も良くて明るくて、誰からも好かれるタイプ。まさに悠子が理想とする女性だ。まさか入学してすぐにこんな友達ができるなんて思ってもいなかった。

「ねえねえ、考えてくれた?」結衣が少し前に出て振り返り、顔を覗いてきた。なんて可愛いんだろう。いかにも純真無垢といった感じで、他の女性であればあざとい印象を受けてしまいそうな仕草もまったく鼻につかない。悠子は思考が一瞬停止してしまい、「え、ええ?」とだけ言った。

「テニスサークルのことだよ。どう?」結衣の言葉が耳を通って頭の中に染み込んできた。そういえばそんな話をしていた。

「あ、ああ。うん、どうしようかな…」と考えていたフリをしてみたものの、新生活が始まったばかりで周りはてんやわんや。雑務に追われて、そんなことに思いを巡らせている余裕はなかった。

「今日さ、授業が終わったら練習見に行ってみようと思うんだけど。一緒に行かない?」結衣が間髪入れずに誘ってくる。新しい世界に足を踏み入れてみたいという気持ちもあるが、やはり不安の方が大きい。

だが、せっかくできた素敵な友達を手放すわけにはいかない。できれば自分も、結衣のようなそっち側の存在になりたい。悠子は、ネガティブな思考に陥りがちな自分を振り払うように、「うん、分かった」と答えた。

放課後、約束通り結衣と待ち合わせをして練習場へと向かった。校舎から少し離れたところにテニスコートがあった。3面あるコートを取り囲むように、見学者が敷地の周りに並んでいる。誰もがこれから始まる新たな生活に思いを馳せ、笑顔が眩しく輝いている。

「お~い! こっちこっち!」2人に向かって声をかけてくる女性がいた。結衣の知り合いだろうか。また新しい出会いだ。悠子はちょっと身構える。女性は3人組だった。あずさと美咲と理香。顔が引きつらないように挨拶を交わした。

あずさは驚くほど美人だった。眼力が強くて、見詰められると萎縮してしまうほどだ。明確な意思を持ってこの大学に入ったんだろうな、という印象を受ける。

美咲はとにかくずっと喋っている。明るくて笑顔を絶やさない。テニスコートでプレイしている男性を常に目で追っている。理香は真面目そうで、自分と一番近い存在のように感じる。

3人とも気さくで、すぐに打ち解けることができた。結衣がいてくれるおかげだ。

結衣に、「3人とどこで知り合ったの?」とさりげなく尋ねると、「大学に入ってからだよ」と答えた。まだ大学に入って1週間も経っていないというのに、どれだけ溶け込んでいるのだろうと感心させられる。

また、これからどれだけ交友関係を広げていくのだろう、と期待とも不安ともつかない思いも浮かぶ。自分も、結衣と同じように学生生活を謳歌していけるのだろうか。この5人はずっと友達として仲良く過ごしていけるのか。

あれこれ考えているうちに、入部が決まっていた。
(小川沙耶)

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