【恋愛小説】シークレット・レイン~禁断の社内恋愛~ 第14話

敦史は春奈の事件によって、バンコクへ左遷になることが決まった。それを知った聖良は……

第14話 やまない雨(Atsushi-side)

和解

事件がわかった翌日から、俺は会社に休暇届を出し、岐阜に謝罪に向かった。春奈の実家に行くと、その玄関先で俺は彼女の父親から殴られた。

無論、すぐに許してもらえるはずはなかったが、俺は時間の許す限り何度でも足を運ぶつもりだった。

 

俺は、殴られようが裁判を起こされようが会社を辞めさせられようが、甘んじて受け止めるつもりだった。

それでも、春奈との結婚はできないと、その意志だけは訴え続けた。

来る日も来る日も、彼女の実家の玄関先を訪れ、その場で土下座した。

 

一週間後、春奈の父親がついに折れ、結婚も辞職も要求しないと言った。

「君の真剣な態度を見ていたら、君だけに責任があるとは思えなくなった。娘にも大人としての自覚が足りなかったのだろう。会社を辞めさせ、実家に連れ戻す」と。

 

春奈はその日初めて俺に顔を見せた。手首には痛々しい包帯があった。

二人でゆっくり話をすることができなかったが、どんな手を使っても俺をつなぎとめることはできないと知り、父親の言葉を受け入れる気になったようだった。

 

岐阜から東京に戻る列車の中で、春奈からLINE(ライン)が来た。

「ごめんね」の一言と、

「幸せになって」という、やたら明るいスタンプが押されていた。【恋愛小説】シークレット・レイン~禁断の社内恋愛~ 第14話

さようなら営業部

その日は、雨だった。

 

俺は久しぶりに出勤し、営業部オフィスには寄らず、宮本専務のところへ行った。そこで、バンコク行の正式な辞令を受け取った。専務は、

「ほとぼりが冷めたら、また本社に戻すつもりだ。しばらく頑張ってくれ」と、肩を叩いた。

 

営業部に行くと、その空気が凍り付くのが分かった。

みんな、俺にどう接していいかわからないのだろう。

俺は、「これまでお世話になりました。ご心配をおかけして、すみませんでした。バンコクに行くことになりました。向こうで頑張ってきます」

と頭を下げ、デスクを片付け始めた。【恋愛小説】シークレット・レイン~禁断の社内恋愛~ 第14話

雨に打たれて

聖良はいなかった。

昨日から、大阪に出張しているという。

水口は、

「今日の朝の便で戻って出社するって言ってたんだけど、遅れているみたいだね」

と言った。

水口が聖良と話したことは、水口からの電話で聞かされていた。

 

俺はもう、誰も恨んだりしていない。

春奈や両親の気持ちが落ち着き、訴訟を取りやめてもらって会社に迷惑をかけずに済んだのだから、むしろ、この流れに感謝している。

 

だからこそ、聖良とのやりとりは再開できなかった。

彼女がどんなに傷ついたか、悲しんだか、そして、今、どれだけ俺に会いたいと思っているか、手に取るようにわかった。

 

けれども、今また彼女とのことが知られてしまえば、すべては台無しになる。

彼女を守るために、俺は必死に自分を抑えていた。

春奈に土下座したことや、バンコクに飛ばされることは、罰でも何でもない。

俺の軽率な振舞いに対して下される罰は、最愛の聖良との別離にほかならない。

 

不倫。

家庭があっても愛し合っているという男女は五万といるだろう。

俺たちもそんな数多くのカップルの一つに過ぎないのかも知れない。

俺たちだけが、罰を受けるなんて理不尽なことかもしれない。

 

けれど、あの、魂が一つになるような、とろけるような彼女との時間は、本物だった。生きてきて、唯一とも言える真実の絆だった。

だからこそ、今は、耐えなくてはならない気がしていた。

 

 

俺が会社を出て表通りを渡った直後、入れ替わるようにタクシーが会社ビルの玄関に横付けした。

 

聖良が下りてきた。

そしてすぐ、俺に気づき、足を止めた。

 

彼女は雨の中に佇んでいる。

俺も、傘を落とし、彼女と同じように落ちてくる雨に身をさらした。

いつだって、二人で一緒に濡れてきたのだから。

 

通りを挟んで、俺たちは見つめ合った。

 

聖良は美しかった。

 

その唇がかすかに動いた。

俺は、彼女がつぶやいた短い言葉を感じ取り、浅くうなづいた。

 

彼女は微笑み、くるりと踵(きびす)を返してビルに吸い込まれて行った。【恋愛小説】シークレット・レイン~禁断の社内恋愛~ 第14話第1話から読みたい人は……
シークレット・レイン~禁断の社内恋愛~
次回をお楽しみに!!

吉井ベロニカの他の記事を読む


この記事どうだった?

0いいね!

0うーん…