【恋愛小説】シークレット・レイン~禁断の社内恋愛~ 最終話

バンコクに転勤することになった敦史は、オフィスを去る日、雨の中で通りを挟んで聖良と向き合った。時が止まったように見つめ合う二人だったが……

最終話 「愛してる」(Atsushi&Seira)

2年後~Atsushi

俺と聖良が会ったのは、雨に打たれて遠くから互いに見つめ合ったあの日が最後だった。

バンコクに赴任しても、本社からの情報で彼女の噂は時折耳にしたし、俺はLINE(ライン)から彼女を消してはいなかった。

その気になれば、また人の目を盗んで連絡ぐらいはできる状態だった。

だが、俺たちはこの2年、完全に関係を断っていた。

 

聖良と話をしたわけではないけれど、彼女もきっと、俺と同じ気持ちだと信じていた。

 

心の奥で俺たちはいつもつながっているという感覚があったし、自然な形で必ず再会できるという確信のようなものを抱いていた。

 

そう“自然な形”で。

 

俺たちが運命的なつながりなら、いつの日かまた、必ず愛し合える時が来る。

俺はジジイになったって、それを待ち続ける覚悟だった。【恋愛小説】シークレット・レイン~禁断の社内恋愛~ 最終話

新しい暮らし~Seira

敦史がバンコクに旅立って1年後、私は亮介と離婚した。

ある日突然、亮介から別れを切り出されたのだった。

亮介がずっとつながっていた女性に、彼の子どもができたという。

 

私はその日のうちに離婚届にサインし、一銭の慰謝料も受け取らないと約束して、一人でマンションを出た。

 

敦史と逢うまで、私にとって亮介は最愛の夫であり、より所だった。妻として大切にしてくれた喜びも、裏切られたと知った時の胸の痛みも、忘れていない。

けれど、この別れは私が魂の底から望み、引き寄せた結果なんだと静かに受け止めた。

 

私は、本物の愛を知ってしまったから……

運命の人と出会ってしまったから……

もう二度とあの頃に戻ることはできない。

 

亮介は何度も「すまない」とくり返し、見たこともないような切ないまなざしで私を見送った。初めて、仮面を脱ぎ捨てた、本当の彼の瞳を見た気がした。

 

私は会社の近くにマンションを借り、一人暮らしを始めた。

営業部はいつも戦場のよう。仕事は忙しく、やることが山済み。

寂しくはなかった。

 

それでも雨が窓を濡らす日は、敦史のことがよぎり、涙があふれそうになるのを堪えた。

 

前を向いて、一歩一歩進むしかない。

“その時”が来るまで。【恋愛小説】シークレット・レイン~禁断の社内恋愛~ 最終話

エピローグ~再び重なる時

成田から会社に向かうタクシーに揺られて、窓の外を流れる久しぶりの風景を見つめていた。

曇天から、ぽつぽつと雨粒が落ちてきた。

俺はふと思い立ち、

「運転手さん、やっぱりもう少し先へ、降りるところ変えてもらっていいですか?」

 

そうして、会社のビルの前を素通りするように頼んだ。

 

2年前に別れた日、聖良が立っていたビルの玄関が窓の外を流れていった。

あの時の聖良の唇は、

 

「愛してる」

 

と動いた。

 

 

会社を通り過ぎて向かったのは、彼女と初めて逢った小さな煙草屋の前。

閉店して数年経つのに、ボロボロのシャッターも色がはげた看板もそのままだった。

 

タクシーを降りたものの、雨脚はだんだん強まってきた。

「しまった。傘持ってないや。なにやってんだ俺」

と、独り言をつぶやいた。

 

その時……。

 

彼女が現れた。

同じように傘を持っていない彼女は、軒先にゆっくりと入ってきて、俺の横に立った。

 

そうして、

「不思議ね、なんとなく足が向いちゃったの。ここに来るの、あの時以来なのに」

と、つぶやいた。少し涙声だった。

 

 

初めてあった日、俺は彼女の美しさにみとれて何も言葉を発することはできなかったけれど、今日は、はやる気持ちを抑えて言った。

 

「不思議じゃないよ、当然だよ。俺たちはつながってるんだから」

 

 

【終】【恋愛小説】シークレット・レイン~禁断の社内恋愛~ 最終話第1話から読みたい人は……
シークレット・レイン~禁断の社内恋愛~

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