イタリアの男【プライド&フェイク/第3話】

石垣との食事から1週間後、悠子は再び中西和真のレストランに向かった。夜は予約でいっぱいだが、昼間なら比較的入りやすいということでその時間帯を狙って訪れていた。もちろん、中西和真とコンタクトを取るためだ。

イタリアの男【プライド&フェイク/第3話】

店内はやはり満席に近い状態だったが、タイミングよく出て行く客がいたので入店することができた。ランチのコースを頼み、前菜が運ばれてきたところでウェイターに尋ねた。

「中西さんはいらっしゃいますか?」するとウェイターは申し訳なさそうな表情を浮かべ、「すいません本日は……」と店には来ていない旨を告げ頭を下げた。

「そうですか…」
「失礼ですが、中西シェフのお知り合いですか?」
「え、あ、まあ、少し…」

悠子がそう言うと、ウェイターは「少々お待ちください」といったんその場を離れた。すぐに厨房からコックコート姿の男が出てきて悠子の隣に立った。イタリア人だろうか、中西よりもさらに背が高く端正な顔立ちをしていた。

「申し訳ありません。ナカニシにご用でしたか?」口から出てきた流暢な日本語に驚き、「あ、いえ……」と慌てて返した。

「私、副料理長のルチアーノ・リッジョと申します」丁寧な挨拶に、悠子も自分の名前を伝えて会釈した。

「カズマはいませんが、料理を楽しんでいってください」ルチアーノが明るく人懐っこい笑顔を見せると、悠子も肩の力が抜けて自然と笑みがこぼれた。目を見て話すと、その青みがかった色に引き込まれそうになる。

「悠子さんはとても美しいですね」会って間もない上に、客である悠子に対してそんな言葉を投げかけてくるところはいかにもイタリア人らしい。ただ、口元はほころんでいるものの目は真剣そのものであり、アンバランスな表情が悠子の心を揺さぶった。

「ルチアーノさんたら、日本語だけじゃなくお世辞もお上手ですね」
「おせじ? なんですかそれは?」
「まあ、知っているくせに。とぼけたことおっしゃる」
「よかったら、今度お食事でもご一緒しませんか?」

早い。とにかく展開が早い。ガツガツした肉食系のようであって、それでいてどこか余裕もあり達観しているようにも感じられる。突如として押し寄せた異文化の波に、悠子は躊躇う間もなくさらわれていた。

連絡先を交換し、さっそく夜に会うことになった。指定された場所でしばし待つ。これまで外国人と接したことはほとんどない。ターゲットである中西に近付くためにもマイナスにはならないだろうと、自分を納得させながら待つ。しばらくして目の前に真っ赤なスポーツカーが止まった。ドアが開いて長身のルチアーノが姿を見せる。

「ユウコ!」公衆の面前で堂々と手を挙げて招き寄せる様子は、旧知の間柄であるかのようだ。車に乗り込むとムスク系の香りが漂い大人の色気を印象づける。

「うちにいいワインがあるんだ」回り道などせずさっそく家に向かうことになった。有無を言わさぬ強引な誘いだがそれも新鮮で心地よい。スポーツカーは地を這うように道路を突き進んでいく。

(つづく)

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(小川沙耶)

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