隙があるオンナ【恋愛とセックスのかけ算/37歳 みちるの場合 第5話】

晴太が寝静まった頃、章介が帰って来た。めずらしく飲んでいない。

第5話・みちるの場合

画像:(c)Minerva Studio – Fotolia.com

「おい、みちる、土産だ」

無造作にテーブルの上に朱色の包み紙でくるんだものを置く。開けてみると、籠に入った4羽の子うさぎ。皆、耳に小さなリボンをつけている。身を寄せ合いながら座っているぬいぐるみ。

「…かわいい」

「昔、倉庫から持って帰った雑貨でいちいち喜んでくれてたな。女ってわからんわ」

「洗面所のタオルケースの上に飾る」

「どうする、4人の子供ができたら」

「バーカ…」

久しぶりに章介と夫婦らしい会話をした。

章介がレンジのそばにあるチャーハンの袋に気づいた。

「おまえ、冷凍食品、晴太に食わしたのか」
 
 

みちるは、頷いた。

「疲れきってて。今日…」

章介の目つきが変わった。昔の章介のようにやさしいまなざし。

「疲れたら手抜きしろ。誰も咎めない」

こそばゆい感触が背筋を駆け上がった。気を張って生きている自分を今日は甘やかせたこと。それを章介が嬉しそうにに認めたこと。

翌朝、電車の窓に映るみちるの表情は、いつもの隙がない表情だった。「よし、今日も頑張るか」と気合を入れる。

そのとき、スマホにメールが入った。

「おはようございます。個人メールで失礼します。土曜、覚えておいてくださいね。疲れたみちるさんを元気にするにはぴったりの出来事が起こりますよ。Yo-ko」

沼部洋子、気になる。自分とは違う世界で生きている、隙があるオンナ。社内の評判は最悪の尻軽女。いつか負けるかもしれない女。

なぜ気になる。なぜみちるに近づいてくる。スルーした。今日は完成させなければいけないプレゼン用資料がある。洋子などかまっていられない。データの裏付けを取る作業で一日缶詰めだ。

(つづく)
 
 
(二松まゆみ)

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