【ショートストーリー】恋してみたら? 第3話 恋の鉄則 <黎子(れいこ)③>」

間違いですか
責めなかった 聞かなかった
運命だと思ったから

「それでは、カップル誕生になった方を読み上げます…!」

ラストのメインイベント。司会者の読み上げたマッチング番号の中に、黎子や貴史のそれは入っていなかった。

3ヵ月後…。

“来週、この前話した美術展行きませんか?連絡待ってます”。

思った通り、メールは藤倉からだった。黎子は、携帯をBagにしまう。返信は明日か明後日、すぐにはしない。

木曜午後8時、話題のレストラン。テーブルの向かいでは、見合い相手の水野がワインを選んでいる。合コン中の個室から男女の笑い声が響き渡り、黎子は一瞬、あの婚活パーティの夜に思いを馳せた。

希望カードを白紙で出したことを打ち明けると、貴史は、俺も! と微笑んだ。彼のマンションのベッドで…。そう、あの日、黎子は彼の部屋に泊まった。一度のキスを引きずっていた長い時間を一息で飛び越えて。

「会いたかった。嬉しい」という言葉を信じたくて、何も聞かなかった。

『会いたかったなら何故連絡してくれなかったの?』

込み上げる疑問は飲み込んだ。再会は運命だと思ったから。でもそれは、新しい苦しみの始まりだったのだ。連絡はまたすぐ途絶えた。そして悪夢再来の音信不通。ついにマンション前で待ちぶせした黎子が見たのは、見覚えのある女性と連れだって帰ってきた貴史の姿だった。女性は、同じモデルハウスに勤める後輩の栗原尚美だった。

「男の人って追いかけるのが好きなんですよぉ。手に入ると途端につまんなくなっちゃうっていうか…」。

翌日、尚美の方からランチに誘って来た。黎子はアイスカフェオレをかき混ぜながら、彼女の耳に揺れるピアスを見つめていた。貴史がアドレスを聞き出したのは自分1人じゃなかった、それだけでも充分にショックだった。だが尚美に連絡があったのは、アドレスを教えて1年以上経った、つい最近だという。

「本命は先輩だったんですよぉ。でも先輩、がんがん追いかけちゃったんでしょ? で、違うかなって思ったみたい。だめですよ、女はもったいぶらなきゃ」。

貴史と会ったのは2回目で、部屋には行ったが何もなかった、と聞きもしないのに打ち明けてくる。誘われてから会うまで随分焦らしたのだ、とも。

「メール返信は即座にしない。気持ちは相手に言わせる。すぐ許したりしない。鉄則ですよ」。

「駆け引きなんて…」。

「恋を楽しむって事ですよ。男性は安心じゃなくドキドキを求めてるんですっ」。

恋人候補は他にもいると話す尚美は、悔しいけれど輝いて見えた。男性が彼女を恋人にしたら、さぞ心配で追いかけたくなるだろう…。

近くまで来たから、と藤倉がモデルルームに現れたのは、それから一週間後のことだった。
                                    つづく