【ショートストーリー】恋してみたら? 第4話 会いたくて <黎子(れいこ) 最終回>

知っていますか
傷つくことより 失うことの方が
何倍も 何十倍も 悲しいってこと

 

「近くまで来た」というのが口実でなく、本当にモデルルームの傍まで仕事で来たという所が何だか癪に障る。貴史ほど格好良くないのも気にいらない。だが、藤倉とは不思議に会話が途切れなかった。

数回2人で会う内に、随分前から知り合いだったような感覚になっていた。
だが黎子は、尚美に言われた“恋の鉄則”を忘れていない。同じ過ちは嫌だ。

間違っても藤倉に執着しない為に、「エデン」を介して見合いもした。最初の1人は会話のつまらなさに辟易したが、今夜の水野はスマートだし、話も上手で笑わせてくれる…。前菜を食べ始めた時に再びメール着信があったが、そのままにした。帰宅後、開いたメールにはこうあった。

「会って話したい事があるんだ」。

来週末は、水野との次回デートの予定がある。迷ったあげく、その日は無理、と返信した。しばらく会っていない藤倉に話したい事が溜まっている。でも即座に返信したり、ホイホイついて行けば甘く見られるかもしれないから…。

心が動きそうになる度、「男性を安心させちゃいけない」という尚美の言葉を思い出す。彼女の耳に揺れていたピアスが、危険信号みたいに頭の中で煌めく。

ところが、その尚美が突然結婚するという。

「私からプロポーズしちゃったんです」。

不満げな黎子の気持ちを察したように、「ほんとに好きになったら鉄則なんて考える余裕ないんですね」。尚美は、照れ臭そうに笑った。

「何考えてるの?さっきからボーッとして」。

貴史が顔をのぞき込んでくる。連絡を取らないでいると、彼の方から電話やメールが来た。会ってみると、貴史は優しかった。だが黎子の心はときめかない。気づくと、二週間近く連絡の途絶えた藤倉の事を考えている。

シーソーみたい。思わず溜息が漏れた。こっちが上がると向こうは下がって、こっちが背中を向けると…藤倉は私に背中を向けたんだろうか? ふいに、息が出来ない程の悲しみが襲ってくる。

その時、携帯が藤倉からのメール着信を告げて震えた。

「夕方の新幹線で大阪に行きます。急に転勤することになり、何年かは向こうなので、その前に話がしたかったけど残念。身体に気をつけて」。

けたたましい音が喫茶店中に響き渡った。黎子が突然立ち上がった拍子に、椅子が倒れて転がったのだ。

「何時の新幹線? すぐ追いかけるからどこかで会える? 会いたいです」。

タクシーの中で返信した。会いたい…何十回でも伝えたかった。鉄則なんて!黎子は自分の頬をひっぱたきたくなる衝動に駆られている。シーソーだって構わない! 私の愛が彼より重くて何が悪い? 背中を向けたら前に回って呼びかければいい! このまま藤倉を失う事に比べれば、傷つく事なんか何でもないではないか。

夕陽が街をオレンジ色に染めていく。黎子は、ただ真っ直ぐ前を見つめている。あの角を曲がったら駅はもうすぐだ。

                             黎子終わり